「いまだ成らず」を読んだ
2024/09/08
「いまだ成らず 羽生善治の譜」を読んだ。棋士界の動向をまったく知らない自分でも羽生さんは知っており、子供の頃からなんとなく好きだった。数年前に読んだ「大局観」には千手先を読むことから直感的に次の一手がみえるようになった思考の変化について触れられていて、経験を積んでいくといずれロジックを飛ばして最良手に辿り着くことがあるのは面白い感覚だと思った。羽生さんの何千分のイチのスケールだがこの感覚は自分の仕事でも感じるときがあり、Webサービスの仕様を検討する際にロジックをあまり考えずともすぐ決められるときがある。そしてそう判断できる理由を考えていくとこれまでの意思決定であったり、経験してきたことが礎になっていることが分かり、大局観だなぁと本を思い返したりしている。
本書はそんな羽生さんについて書かれた一冊。羽生さんといえば最強というイメージがあったが最近は勝率も落ち負けているらしく、A級から落ちてB級になったりもしているらしい。かつての最強がまた挑戦者へ。AIが登場し研究の方法がまるで変わったりもする。それでも羽生さんは心を曲げず、好奇心をもって探究していく。
本の構成で面白いのが、ドキュメンタリーなのに羽生さん本人には一言も話を聞いていないこと。本人ではなく周りのプロ棋士の生涯を描き、そこに羽生さんが登場していくことで外堀から羽生善治像が描かれていく。羽生さんの背中をみながら苦しんだり、タイトル戦で挑むも自分のペースを崩して負けたり、はじめての一勝を手にしたり。存在感というか、羽生さんが強く純粋であるゆえに誰もそこを無視して通り過ぎることはできず、向き合い続けさせられる。こういう構造のドキュメンタリーは初めて読んだがめちゃ面白く、2日くらいで一気に読み進めた(どの章もパンチラインだらけ)。
慣性の法則
2024/09/05
フィリピンから帰ってきてから読書欲が高い状態が続いている。旅行中に読んだ本に面白いものが多く、もっとこういう本が読みたいという気持ちでいろいろ読み漁っている。
知人が作っているBookBankというアプリで読書記録をつけているが、このアプリでは月ごとの読書数を振り返る機能がある。ここ数年を振り返ってみると月ごとにかなりバラつきがあり、よく読むときは月10冊を超えるのに対し、月に1冊も読まないときもある。その理由を考えてみると、個人開発に没頭している時期に読書から離れていることがわかる。Webサービスやアプリを作っている間はそれに夢中で、本を読みたいという気持ちが沸かなくなる。
この「何かに興味を抱くとそればかりやってしまう」のは自分のスタイルで、思い返せば子供のときからそうだった。学校から家に帰ってきて漫画を読みはじめたら夕食までずっと漫画を読んでたし、勉強をはじめたら夕食まで机に向かって問題を解いていた。書籍の方の「君たちはどう生きるか」でコペル君が同じことをやり続けるのが人間の習性だと気づくシーンがある。ここを読んだときはわかる!と思ったのをよく覚えている。習慣術みたいな文脈で、朝起きたらまずやることで必要なものを机の上に置いてから寝ましょう、みたいなテクニックがよく語られる。毎朝日記を書くならノートを置く、体温を測るなら体温計を置くみたいな。朝起きて最初にやったことが流れを生むという説だが、これも理に適っているいると思う。逆に距離をおきたいものは収納の中に隠して腰を重くすれば離れられる。
線を引きながら本を読む
2024/09/05
読書が好きだが、本は電子書籍ではなくすべて物理本で買っている。電子書籍は何度か試したが続かなかった。私の読書スタイルには物理本が合っている。
スタイルというのはペンを持ちながら読むことで、心に刺さった表現や共感したこと、おもしろい言い回しなどに線を引く。読みながら考えたことや感じたことはページの余白部分に走り書きする。読書していると脳が活性化するのか、本の内容とまったく関係ないことを思いついたりする。それも余白部分に書き込む。書き込みせずに読む場合、紹介されているこの本あとで調べようとか、この言い回し美しいなとか、そういったことを脳の片隅で記憶しておく必要がある。これは読書とは違った脳の種類だと思っており、同時にしようとすると疲れる。最初はビジネス本や技術本でやっていたが、最近はエッセイや小説などジャンル問わずペン片手に読むようにしている。
読み終わったら線を引いた箇所をまとめる。私の場合はNotionというサービスに書き出している。この作業は本を読み終わって2-3日経ってからやると良い。記憶が薄れてきたときに再び本の内容を読むことで、気に入っていた表現に再度触れられるというか、記憶を深いものにできる気がする。ここでまとめた内容を見返すことは正直ほとんどない。ごくまれに何かで引用したり、同僚に紹介したりする時に検索で役立つくらい。それでもこのまとめは絶対に作ったほうが良いと感じていて、それは本で得た内容を脳から切り離して別の場所に記録しておく良さだと思う。「こういう内容あったけど何で読んだたかな…」と思い出せないとき、Notionを探せば見つけられるという環境はメンタル的に良い。
「会社という迷宮」を読んだ
2024/09/01
「会社という迷宮」を読んだ。コンサルとして経験を積んできた著者が「会社」の本質に迫る一冊。いわゆる会社論とは違い、「コンサルではこう言ってるけど本当は〜」みたいな記述が多く、どれも芯を喰っていて唸らされる。私は数年前に転職し、それからはスタートアップの経営チームとしても仕事してきた。エンジニアという枠を超え会社の成長を考えていくなかで、市場調査であったり競合比較であったりは多少経験を積んだが、その過程でずっとあったモヤモヤをこの本は言語化してくれている。
例えば利益についての一文。「利益」という場所から意識が出発すると、つまるところそれは「差」、言い換えると他者との相対的関係においてしか捉えられないものとなる。それを競争と呼ぶ。しかし、それはどこまで行っても、相対的なものであり続ける。問題になるのは、自ら定めた目標との距離ではなく、競争相手との相対的な距離である。もし、会社が自ら航海の行き先と定める独自の価値を持たないならば、航海の羅針盤は競争相手との相対的位置関係だけになる。スタートアップ界隈には「T2D3」という言葉があり、TはTriple、DはDoubleを意味する。つまり今後の5年で、最初の2年はTriple(3倍成長)、次の3年はDouble(2倍成長)するという意味である。スタートアップにはこれぐらいの急成長が必要という指標みたいなもので、これを参考に計画を立てたりもした。しかしこれは「急成長します」以外の何も語っておらず、会社が何をするのか、どういう課題を解決していくのかには当然ながら何も触れていない。会社というのは成し遂げたいことがあったから立ち上げられたもののはずで、そのビジョン(上の文でいう独自の価値)をもっと大事にしなければならないはず。
さらにもうひとつ紹介。可視化できないものまでなんでも可視化して説明しようとする習いが行きすぎれば、逆に対象を見える範囲に限定する視野狭窄となり、結果的にものごと自体を矮小化してしまう。
「何を作るか」のアイデアの作り方
2024/08/26
仕事とは別で、趣味でWebサービスやスマホアプリを作っている。平日の夜や週末などに。作ることは楽しいし、うまくいけば広告やサブスクで収益をあげられるので良い趣味だと思うが、難しいのが「何を作るか」を決めること。自分の学びたい技術が何か、個人で作れる規模か、どれくらいの期間で作りきれそうか、便利なもの or 使っていて楽しいものか、それにお金を払ってくれる人はどれくらいいるか、Webで作るかアプリで作るかなど、とても多くの変数がある。
これまではその時々で興味のあるもの、関心のあるものを作ってきたが、継続してアップデートできているものもあればリリース以降メンテできていないものもある。その違いは何かというと「本当に自分が興味を持てているか」だと思う。
自分が憧れる作り方に、コツコツ改善していったらクチコミで少しずつ広がり、やがてヒット作になっていくというものがある。最初の数ヶ月はユーザー数が3人とかで鳴かず飛ばずだが、改善を続けていくと利用者数のグラフは右肩上がりになっていく。有名なところだとAirbnb、個人開発でいうとTODOアプリのミントなどが思い浮かぶ。振り返って語られるのは、初期のユーザー数は確かに少なかったが、その数人はとても熱量高く使ってくれていた、みたいなエピソード。誰か一人に深く刺さるものは他にも刺さる人が必ずいる。ただインターネットは広大なので対象者に届くまでに時間がかかる。それを待ちながら、自分のサービスを信じて改善していけるかがポイントになる。
マルチタスク
2024/08/25
年々マルチタスクが苦手になってきている。社会人5年目くらいまではドラマや映画をみながらプログラミングできていたが、最近はひとつひとつ取り組まないとあまり捗らない。最近読んだ本によると年齢を重ねるにつれてマルチタスクが苦手になっていくらしい。まさにそんな感じ。
年齢以外でも、目の前のことに集中するのが心地良いことに気づいた、というのがある。元々周りの人が考えていることを想像して慮ってしまう性格で、何かやっているときも周囲の目は何割かの意識で気にしていた。ある時からそれがしんどくなり、「ごちゃごちゃ考えるんじゃなくて自分のやるべきことをやる。自分に言いたいことがあれば言ってくれるだろう」というマインドに寄せていった。自分の人生を生きるうえでは、これは良い切り替えだったと思う。
数年前に心が落ち着かなかったとき、「マインドフルネス瞑想入門」という本を読んで実践した。姿勢を整え、目を瞑って10分くらい何も考えずに過ごすというもの。この何も考えないというのが案外難しく、仕事や将来の不安、過去の失敗など、自然といろんなトピックが浮かんでくる。飛行機や車の音など、外部環境からも集中を邪魔してくる。こうしたノイズを排除するのではなく、「仕事」「過去」「車の音」などとラベリングしたうえで、木の葉にのせて川に流していく(イメージで)。やってみて思ったのは日々暮らしていて「何も考えない」時間ってまったくなかったな、というもの。どこにでも持ち運べるスマホが便利すぎて、ちょっとしたスキマ時間もすべて何かできてしまう。1日3分とか5分でも、何も考えない時間を設けるだけで心の健康に効く気がした。