「口の立つやつが勝つってことでいいのか」を読んだ

2025/10/14

口の立つやつが勝つってことでいいのか」を読んだ。Xで話題らしくて本屋に行ってもなかなか出会えず、Amazonでポチってゲットした。エッセイ集だがこれといったテーマがあるわけではない。著者の方が見たこと、気づいたことが言葉で表現されていてとても読み応えがあった。

本書のタイトルにある通り、「口がうまいというのはそんなに良いことなのか?」という点から本書は始まる。ひろゆきが人気を博したように、相手をうまく言いくるめられる人がすごいとされる世界になってきている。しかしテキパキと意見を言うのはそんなに良いことなのか?著者はむしろそれはいかがわしく、口ごもったり迷ってる人の方が温かみがあるという。

自分もお笑いが好きで育ったので、かつてはたくさん喋ったりエピソードトークを淀みなく喋ることがクールだと思っていた。でも最近はちょっと違ってきて、たくさん喋るとそれだけハズレの言葉を選んでしまっている、という感覚がある。例えば「個人開発はお小遣い稼ぎに良い」と発言する。これは正しい側面もあるけど自分の見えてる世界とはかなりズレており、こう表現してしまうことで自分を裏切った気分になる。なので言葉を選ぶようになり喋る時間が短くなってきている。それに伴いテキパキと論理的に喋る人は苦手になり、失敗したり勝ち目のない戦いをするような不合理な人と一緒にいたくなってきている。

「人間として何が重要か?」という節はとても面白かった。本書では「親切」はどうかと述べられている。「愛」は重すぎて扱いづらい。愛を注いだ結果裏切られた場合、そのエネルギーが反転して相手への憎しみに変わってしまうことがある。親切は愛よりもちょっと軽い感じがする。隣人を愛すことはできなくても隣人に親切にすることはすぐできそうだ。仲の良い人と争いになった時は愛を減らして親切を増やしましょう。

読書は新しい物語と出会う方法、という話も面白い。人はみな物語を生きている。そして大体人生は思う通りにはいかないので、悩んだり苦しんだりして思ってもみない道に進むことがある。これまでの物語では生きていけなくなったなら、新しい物語を自分にインストールするしかない。

本との本当の出会いは、読んだときではなく、その本を思い出す体験をしたときなのかもしれない

1年にそれなりの数の本を読んでいるが、読んだ本の内容を覚えているかというとまったくそんなことはない。でも何かに行き詰まった時、「あの本にはこう書かれてたな」とか「あの本で言ってたのってこれのことか」と分かる瞬間がたまにある。誰かの物語は予想しないタイミングで自分の心を軽くしてくれるときがある。