「やりきる意思決定」を読んだ

2025/08/17

やりきる意思決定」を読んだ。プロダクトマネージャーの仕事で一番新しく学ぶ必要があったのが意思決定で、書籍や実際の経験から学んだ内容をnoteにまとめたりしていた。この本はそれを見かけた著者の方から献本いただいた。一冊通して読んでみて、AI時代に人間がやるのは意思決定になるよなぁと改めて実感することになった。

生成AIの性能は本当にすごくて驚かされっぱなしだが、それでも会社や事業をどうしていくべきかを答えることはできない。そのビジョンは人間が決めることだから。ビジョンを実現するための選択肢やヒントを与えてもらうことはできる。しかしヒントのどこを実際に取り入れるか、どう試していくはやはり人間の仕事のままである。

良い意思決定とはどういうものか?情報が適切に集められて、その中から重要なものを精査できて、小さく実践して解像度をあげていく。チームや組織で取り組む場合にはコミュニケーションも重要。意思決定の前提や、なぜその考えに至ったかの文脈を伝えて組織が同じ方向を向ければ推進力が大きくなる。そういった各ポイントについて、本書では具体例を交えながら分かりやすく紹介されている。

例えば顧客インタビューの作法について。よくある間違いとして誘導するような質問をしてしまったり(「クーポンがあればまた来店しますか?」と聞いてしまう。ユーザーはよく考えずにYesと答える)、目的が曖昧なまま進めてしまって集まった情報を活用できなかったりがある。インタビューは目的に沿って景色をできるだけ広くするために使うもの。ユーザーの行動パターンやその背景を深掘りし、ユーザーに「なりきれる」くらいになれれば成功といえる。

個人的に面白かったのが「見つけた課題にどう挑むか」という節。著者の方がヒットサービスを生んだクリエイターにインタビューしたところ、革新的なアイデアは「既存の概念や解決策を別分野に応用した」パターンが多かったという。昔読んだ「コピーキャット」という本にも同じことが書かれていた。ゼロから生み出されるアイデアというものはほとんどなく、概念の新しい組み合わせにより新しいものが生まれる。なので、事業を伸ばすためにはまずインタビューなどで課題をたくさん集める。その中からいま解くべき課題を見定め、自分がコレクションしてきたアイデア集から解決策に応用できるものがないかを探していく。課題が見つかってから調査を開始するとどうしてもその軸から逸脱しづらく一般的なアイデアの枠を飛び出せない。ユニークな角度の意見を出せるかは、普段から自分の引き出しをどれだけ拡げられているかによる。

本書の主題ではないが、題材となっているサービス「AI Central」も面白い。ユーザーや従業員からのフィードバックは膨大すぎてそのまま使うのは難しい。そこでAIにより大まかに分類して整理する。整理しておくとAIが必要に応じて知識を引けるので、商品開発などの際にチャットなどで尋ねると濃い文脈が乗った回答をしてもらえる(と理解している)。最近はコンテキストエンジニアリングといってAIに渡す情報をどう設計するかがAI開発のひとつのテーマになっている。技術領域で議論されることが多いが、このサービスはビジネス領域でコンテキストエンジニアリングしている事例といえるかもしれない。