海外カンファレンスの思い出
いま、アメリカではAppleの開発者向けカンファレンス「WWDC」が開催されている。年に一度開かれるこの会ではAppleのソフトウェアや開発者ツールのアップデートが発表され、モバイルアプリ開発をしているエンジニアにとってはちょっとしたお祭りの期間になる。前職ではキャッチアップ目的で毎年何人か出張に行っており、自分も運良く2年連続で参加させてもらった。月曜から金曜までの1週間、朝9時から夕方17時までという遊びのないスケジュールで色々な機能が発表される。セッションは5つの部屋で並行して行われており、その中で自分が興味のあるセッションを選んで参加する。セッションに出ずに休憩の時間にしたり、Appleのエンジニアに直接質問しに行ったりと時間の使い方も自由。豪華な朝食会場があったり記念グッズが販売されていたりと会場の雰囲気はお祭りに近い。そして世界中から集まった見ず知らずのエンジニアと隣同士座り、発表された内容を一緒に喜ぶ。これは他にはない経験だった。
WWDCに2年連続で参加し、自分の中のカンファレンス熱はやや下がりつつあった。やはり初年参加した時のほうが感動が大きく、少ない枠を自分が占有するよりも色んな人が行った方が良いと思ったため。発表の内容も良いが、海外カンファレンスの一番の要素は会場の熱を肌で感じてテンションを上げることだと思う。あの空間に行くとエンジニアという職業が最高にクールで、素晴らしいプロダクトを生み出す力を持っているのだと自分を肯定できる。そんなわけでチケットが当たっても同僚に譲っていた。ちなみに抽選の倍率がかなり高いのだが、自分はなぜか5年連続で当選した。
そこから数年経ち、カンファレンスに聴衆として参加する気持ちはほぼなくなっていた。参加するなら発表者側で出たいなと思い、オランダのカンファレンスに同僚と申し込んだところなんと当選してしまった。エンジニアのカンファレンスはCall of Paperと言って、自分が話したい内容のサマリをまず提出し、運営側が会の趣旨と合っていると判断したものを選ぶことが多い。その時は本気だったので5つくらいセッションを考えて出した。その中のひとつが無事当選し、そこからは英語でスライドを作ったり発表練習をしたりと大忙し。だいぶ温まってきて、本番が翌月に迫った頃にコロナが世界を襲った。流行り始めの際どい時期ではあったが結局カンファレンスは中止になる。翌年オンラインでリモート発表させてはもらったが、本音をいえばやはり現地で発表したかった。そのカンファレンスはオランダの映画館を貸し切ってシアターで発表する形式。もうそんな機会には巡り会えないかもしれない。