手に馴染むサービスはフィードバックがデザインされている
「モードレスデザイン 意味空間の創造」を読んでいる。デザインについて書かれた本だが「明日から役立つ!」のような実践書ではなく、かなり抽象度の高い内容になっていてそれが良い。今まで読んだ本のなかでは「融けるデザイン」に近い気がする。ソフトウェアのデザインがどうあるべきか、そもそもデザインとは何なのかを深く思考する。
気になった箇所をいくつか書いてみる。ハードウェアには物理的制約があり、ソフトウェアには物理的な制約はないが論理的な制約がある。ここまでは良いが、実はソフトウェアにはもう一つ「認知的な制約」がある。論理的に正しい、論理的に可能なものであっても人間の認知能力を超えれば扱えない。「実現できてはいるが誰も使えない仕様」は認知的な制約を無視・軽視した結果生まれている。
デザインが磨かれるプロセスは反復的で、これは完成図をイメージしてそれに近づけていくような作り方とは根本的に異なる。実装して進んでみて微妙であれば壊す。部分的にではなく時には全体を作り直す。ある地点まで作って試し、その手触りにより次の地点が見えてくる。それを繰り返すうちに目指すところへじわじわ寄っていく。エンジニアリングもそうだがプロジェクトの見積もりを出すことはそもそも難しい。締切を守ることよりも少し伸びてもいいから磨き上げて提供する価値の質を担保する方が良い結果につながる。
我々の暮らす自然界はフィードバックに溢れている。手のひらで土を押せば凹み、その分の抵抗が自分に返ってくる。この感触や見た目、音などの知覚情報をもとにして世の中の理解が深まっていく。こうすればああなる、ということが学習されて扱うのが上手くなる。現状のソフトウェアはまったくその域に達していない。クリックして意図せぬ挙動が発生したり、同じボタンでも文脈にとって違うように動いたり、不具合に遭遇したりして期待を裏切られる。そうではなく利用者の期待通りに動作し、違和感のないフィードバックを提供し続ければ道具は手に馴染みその存在を意識しなくなっていく。ユーザーの目的はそのツールを使いこなすことではなくツールを使って何かを成すこと。無意識で思い通りに扱える手触りの良いもの。そんなものを作りたい。