「イン・ザ・メガチャーチ」を読んだ

2025/09/21

朝井リョウさんの新刊「イン・ザ・メガチャーチ」を読んだ。帯にある「神がいないこの国で人を操るには、“物語”を使うのが一番いいんですよ」この言葉に惹かれて本屋で購入。寝る前に少しずつ読もうと思っていたが面白すぎて一気に読んでしまった。

小説のテーマとしては「物語」「ファンダム経済」「視野」などが中心で、3人の人物の目線でストーリーが進行して交わっていく。ファンダム経済という言葉は初めて聞いたが、ググったところ「熱狂的なファンの集まりが生み出す新しい経済圏」らしい。推し活とか投げ銭とか、そのあたりの世界を括るとファンダム経済となる。

ストーリー全体もすこぶる面白いが細部の描写がグサグサ刺さる。「MBTI診断」「アイドルオーディション番組」「陰謀論」「多様性」「仕事とケア」など、ここ数年で盛り上がったテーマが解像度高く描かれている。一人の人間として生きながらこんなに複数の人格の詳細を表現できるものかと驚かされる。物語を使って商品を売り込む人、それに共感させられハマらされる人。どちらにも言い分があり正義がある。

特に心震えたシーンを書いておく。更衣室での会話と友達を心配して駆けつける場面。全体通じて面白いが特にここは次のページをめくらざるをえない吸着力があった。朝井リョウさんの書く緊迫したシーンは本当に面白いです。

これまでの朝井さん作品で一番好きなのは「正欲」でしたが本作はそれと同じくらい興奮がありました。どちらも価値観ひっくり返る系の内容で、自分の信じていたものがグラグラ揺れる体験は読書の醍醐味といってもよさそうです。何でも信じれる時代、何を選んでも良いけどすべてを注ぎにくい時代。時間がたって読み返すとまた違った味わいがありそうな良い小説でした。