人に言いたくなるものを作る
Webサービスをつくるとき、それが「人に言いたくなるものか」を考えるのが大事。自分の課題をドンピシャで解決してくれるとか、使い心地が抜群に良いとか、これまで見たことない機能が提供されているとか。人に話すきっかけは多々あるが、話したくなるものを作れるかはひとつの基準になる。
ある人に刺さるものが作れたとき、それはクチコミで広がる。人は自分と似たコミュニティに属している。趣味であったり仕事であったり属性は様々だが、そこには同じような悩みを抱えた人がいる。自分の悩みを解決してくれるものを見つけたとき、周りにいる人にも紹介する。そしてその人がさらに知人に紹介する。こうしてサービスが知られていく。
サービスを広める方法として、広告を打つなどのお金を使う方法もある。1人を獲得するだけではコストに見合わないので、そこから紹介の連鎖が生まれるかどうかが重要。人に言いたくなる体験があったり、SNSなどにシェアしやすくなっていたり、そういう工夫を入れた上で広告を打つ。クチコミは無料の拡散手段でもあるが、有料の手段を増幅する性質も併せ持っている。
クチコミをすべて計測するのは難しい。Xでポストされるとか目に見えるのは一部で、LINEで紹介されたりランチの時に話されたり多くはクローズドな空間で行われる。登録時にアンケートで「どのようにこのサービスを知りましたか?」と聞けば教えてもらえる場合もあるかもしれない。お金があれば紹介キャンペーン的なことをして、紹介コードを入れてもらうと500円分キャッシュバックするような仕組みを作ることもできる。誰が誰を紹介したのか、1人が平均何人を連れてきてくれるのかの数値を測定できる(バイラル係数と呼ばれる)。
クチコミを生むためにはある程度領域を絞った方がいい。全員向けのサービスと謳うより、特定のコミュニティの課題を解決するサービスの方が良い。何にでも使えますよ、というサービスは天下を取る可能性はあるがそもそも広まりにくい。そういう意味ではNotionはすごいと思っており、使い方が多様なのに人々の心を掴んでいる。クチコミが生まれるほど良い体験を提供できているか、クチコミがコミュニティに広がるほどその課題は汎用的なものか。Webサービスを作るとき、実装に入る前にこのあたりに思いを馳せるとコンセプトの良し悪しを確認できる。自分が欲しいものなら作ったら良いとは思うが、もしかしたら少しのチューニングで多くの人にも喜んでもらえるかもしれない。何かを作り始める前には一度立ち止まって考えてみたい。
誰かに相談しようとしたら解決する
先週末の話。カフェで個人開発をしていて、どうにも解決できない問題があった。この実装で正しく動くはずなのに動かない。ネットで調べても情報はなく、自分と同じ問題に直面している人は他にいないように見える。実装を楽にするためにとあるライブラリを使っていたが、それが良くないのかもしれない。2時間くらい奮闘していたが夕方から予定があって調査を切り上げる必要があり、最後に調べた内容をまとめてそのライブラリのコミュニティに聞いてみる(GitHubのIssueを立てる)ことにした。
発生している問題や期待値、自分が試した内容などをまとめていく。このケースは動くのにこのケースでは挙動がおかしい。そんなことをまとめていると検証しきれてないパターンがあったことに気づく。情報は全部揃っていた方が良いので、漏れていた部分を検証する。すると不可解な挙動になっていて、そこを深掘りすると問題の原因に行き着いた。原因がわかってしまえばすぐ直せる。10分くらいで修正して良い気分でカフェを出る。そして、こういうことってよくあるなと思い返していた。
前の職場でエンジニアとして働いていたとき、行き詰まって同僚に相談することがよくあった。相談するときはソースコードや実際の画面を見てもらいながら、起きている問題について整理して話す。すると不思議なことに、相談しはじめた途端に怪しい箇所が判明し、問題が解決する。これは問題に直面して狭くなった視野を俯瞰して整理するタイミングが必要ということだと思う。問題をツリー構造で理解し、すべてのパターンを試す。このパターンではうまくいくが、このパターンではうまく動かない。その違いを深ぼっていく。問題に直面して1時間くらい経っていると、こういう冷静な脳が働かなくなる。一度画面から離れて、人に話したり状況をテキストにまとめたりするのは視野を取り戻す効果がある。
今回カフェで当たった問題は、自分があまり詳しくない技術の周辺で発生した。勉強中の身なので自信がない。そうなるとエラーの内容でググって一発で誰かの答えを探そうとしてしまう。熟達した分野なら早い段階で落ち着いて問題整理に時間をつかい、一つずつ可能性を潰していったと思う。詰まったら立ち止まって状況を整理すること、自信がなくてもいつも通りのプロセスをふむこと。これらは意識しておきたいポイント。
価値は自分で感じるもの、評価は他人がつけるもの
価値と評価は似ているようで違う。価値は自分で感じる主観的なもの。例えばこの日記はなくても世の中の人にとって全く問題ないが、自分的には続けることに意味を感じているので続けている。一方で、評価は他人が下すもの。絵画や音楽、Webサービスなどあらゆるものが評価の対象となるが、その時々の世間の状況や環境に影響されながら誰かが評価する。そのため死後に作品が評価されることもある。価値と評価、この二つは分けて考えておきたい。
前職でHack Dayというイベントがあった。エンジニアの祭典なるもので、24時間でひとつのWebサービスを作る。この間は通常の業務はストップして、好きなチームで参加し、好きな技術を使い、好きなものを作る。私はよく友人に声をかけて一緒に出ていたが、この時間がとても楽しかった。自分たちが作ってみたいと思うものを作り、そのために必要な技術を調べて勉強する。仲の良い友人と長時間、サービスの仕様や技術、なんでもない話をしながらものづくりする。土日12時間ずつ、という普段の仕事とは違うタイムスパンなのもゲーム感があって面白く、24時間で作り切れるように仕様やスコープを調整していく(のちに平日8時間×3日に変わった)。全員がものづくりが大好きで集まっている人で、会場には活気がある。その空間も好きだった。
Hack Dayは最後に作った作品を発表する時間がある。1チーム5分で順番に発表していく。参加チームも多いので次々とアイデアや作ったものが発表されていく。自分が知らない技術、思いつけないアイデアがたくさんあり、聞いていて勉強になる。自分たちの番をドキドキしながら待つ。チームメンバーの誰かが代表で発表するが、私も何度か発表した。作ったものの魅力を最大限伝えたくて、共感できる課題を最初に提示したり、キャッチーなフレーズを並べたり、開発同様自分の持てるものを注ぎ込んだ。
さて、モヤりポイントはここからで、Hack Dayでは発表の後、いくつかのサービスが表彰される。審査員が話し合って授与される最優秀賞、新しい技術を使いこなしたチームに授与されるHappy Hacking賞、それから技術提供などに協力してくれた各社による協賛賞、社長賞などがある。この時間は自分にとってとても嫌な時間で、入賞したものは良くて、入賞しないものは良くないと判別さているように感じた。あれだけ良い時間を過ごして、ものづくりに熱中して、作ったものを誇る気持ちもあって、それなのに誰か知らない人にそれを価値なしと判断される。当時は今よりもっと人から評価してもらいたい気持ちがあったので、これは辛い体験になった。結局6, 7回参加して一度も受賞はしなかったが、賞欲しさにマイナーな技術を使って無理やり狙いに行ったりもした。それでも選ばれない。賞もなく、本当に作りたかったものを作ってもない。もう意味不明な状態である。自分の浅さにショックを受けたりもした。
ものづくりに熱中している24時間、これには価値がある。自分が心から楽しめて没頭できる時間。またこういう時間を過ごしたいと思う。発表の後の表彰、これは評価である。他人が作品をみて、その人の基準で評価をつける。評価はその人の主観で、絶対に正しいわけじゃない。普通に間違える。しかも審査員のことをよく知っているわけでもない。そんな人たちの評価に左右される必要は本来ない。
例えばそこで表彰されなかったとして、そのWebサービスを世に出してめっちゃ人気のサービスになるというのは普通にありえると思う。Hack Dayという性質上新しい技術をうまく使ったチームが評価されていたが、別に世の中のユーザーは新しい技術に触れたいわけじゃない。自分たちの生活が便利になったり、困っている問題が解決したり、そういうものを求めている。すでに枯れた技術でも組み合わせれば便利になり、同じ機能でも見た目をかわいくするだけ刺さる相手が出てきたりする。審査はあくまでHack Dayの、あの会場のモノサシで測られただけだったと今なら理解できるが、当時は自分のつくったものが価値なしと判定されているような気分になっていた。価値と評価を混同するとこういう不幸が起きる。
基本的には価値、自分が納得できることをやれば良い。人からの評価は水物で、それをコントロールしようとすると疲れる。ただし、給料をもらったりお金を稼いだり、食っていくためには評価が必要になる。周りからの評価が高い方が有利な場面もある。そこは割り切ってチューニングし、表現や届ける相手を工夫するなどして生活できるくらいには評価を得ておく。それが出来たらあとは自分の信じるものに投資する。お金にならないかもしれないが、それをやっているだけですでに楽しいと思えるようなもの。熱は誰かに伝播するので、一生懸命やっていればどこかには繋がる。お金か出会いかはわからないが、思わぬところに行ったりもする。行き先不明な部分も大きいし、他人に理解できないけど自分には大切なものもたくさんあるので、ここは他者の評価はあまり取り入れなくて良い。評価に振り回されず、自分が価値があると思えることに素直に取り組みたい。
「ラストマイル」を観た
「ラストマイル」を観た。映画館にて。上映開始から1ヵ月少々経っていたのもあり観客の入りは6割くらい。すし詰めの環境はあまり好きではないので助かる。アンナチュラルやMIU 404は楽しく見ていたので期待感は高かったが、それを裏切らない面白さだった。
本作品はアンナチュラル、MIU 404と同じ世界で繰り広げられる(シェアード・ユニバース・ムービーというらしい)。懐かしいキャラクターたちに会えるのを楽しみに観に行った部分もあったが、本作のメインキャストである満島ひかりと岡田将生の演技に引き込まれてそういった設定は忘れて没入。とある事件が起こり、ふとしたところでまずはMIUメンバーが登場し、「あ、そういえばそういう世界だった」と思い出す。前2作品を見ていなくても問題なく楽しめるが、見ているとより楽しめる。このバランス感が見事だった。
さて、本編の話はいわば社会派エンターテイメントというところで、実際にある社会問題を交えながら事件が展開されていく。いろんな仕事のリアルや社会問題を知りたくて本を読むことがあるが、いろいろ考えながら読むので体力がいる。本作はそれを映画でやっていて、かつストーリーと演出、演技の力で最初から最後までめっちゃ面白いエンターテイメントになっている。観終わったあとはまずは面白かったという感想で、次にその問題について調べてみようかな、と思わせる。そう思う映画はあまりなかったので不思議な感覚。
満島ひかりの演技も楽しみにして行ったが、とても良かった。特に中盤〜終盤あたりの岡田将生とのシーンでは、「実際にその体験したことがないとできないでしょ!?」と思うくらいリアリティがあった。細かく挟まれるセリフも臨場感を演出しており、どこまでが台本に書かれたセリフなんだろうかと気になってしまう。ユーモアと知性があり、ミステリアスさも少しあるキャラクター。カルテット、First Love 初恋など、満島ひかりの演技を見るのはいつも面白い。
ストーリーは重厚で面白いのだが、展開が早すぎてついていけないところも多々ある。映画を観たあとにそれを調べるのも楽しい時間である。あの発言はどういう意味だったのか、あの人は誰だったのか、なぜあの人はあんな行動をしたのか。考察の余地も残されており、いろんな人がいろんな説を言っている。恋愛リアリティーショーのように感想をあれこれ話す楽しみがありつつ、TENETのように複雑すぎずに幅広い視聴者が一発目から楽しめる。エンターテイメントの力を体いっぱいで感じられた。ちなみに映画館という空間自体は苦手で、大きい音が出されるシーンは身が強張ってしまう。これだけベタ褒めしつつ何箇所か直視できないシーンもあったので、配信されたらまた見てみようと思っています。考察としては「【ネタバレ有】『ラストマイル』感想と考察」というブログ記事が一番しっくり来ました。本編の謎の解明やアンナチュラル・MIU 404との連動も解説されており、映画見た後には読んでみると面白いと思います。
長所も短所もなく特徴がある
新卒の採用面接を受けていたとき、自分の考える長所や短所はどこか?とよく聞かれた。何かで読んだテクニック通りに長所は良い部分、短所は逆転すれば長所にもなりうるようなことを言っていた(人と話すのが好きなので一人で黙々と作業するのは苦手ですね、とか)。なんとなくこの問答には意味がないような気がしていた。そこから話が膨らんだことないし。今、自分が面接をする立場になってみて同じような質問をする時があるが、やはりこの質問では盛り上がらない。なぜか?
短所が反転させて長所にできるように、長所も反転させて短所になる。人が生まれ持って備わった長所や短所というのは存在しなくて、あるのはその人の特徴だけ。その特徴が環境によって長所になったり短所になったりする。これはUSJをV字回復させたことでお馴染みのマーケター、森岡毅さんの著書「苦しかったときの話をしようか」で言語化されたものだと記憶している。森岡さんの本はどれも面白くマーケティングの本質を勉強できるものだが、この本はちょっと毛色が違う。森岡さんには子供がおり、その我が子に宛てて就活、昇進、転職、起業などに関する文書をプライベートとして書き溜めていた。それを編集者が見つけて感銘を受け、一般読者向けにも出版される運びになったらしい。そんなわけで本質を見抜く森岡さんの仕事観が世にでることとなった。
就活で仕事場を探すとき、やってはいけないのは「自分の特徴が弱みになる」場所で働くこと。例えば同じ場所でじっとしてるのが苦手な人が、1日8時間座りっぱなしのデスクワークをする。あるいは好奇心旺盛で新しいもの好きな人が、既存の伝統や慣習を何より重んじる場所で働く。これを避けるために、まずは自分の特徴を探そう、というのが著者の主張だ。
特徴はどう探せばよいか?私なりに噛み砕かせていただくと、いろんなことを試して、他の人よりも簡単にできるものを探すこと。仕事をしていて憧れると、その人的には努力しているつもりはないけど周りからすごいと言われるシーンがある。競合調査の緻密なレポートを出したり、営業で1日に何百件も架電したり、わかりやすいドキュメントを書いたり。自分にとってはすごいことばかりだが、本人に聞いてみると凄ぶらず当たり前のことみたいな反応が返ってくる。長らくは謙遜の美学かと思っていたが、もしかしたら本人にとってはまったく苦ではないことなのかもしれない。こうやって他人に思われていることが何かを考えてみると、自分の特徴を見つける手掛かりとなる。
自身を振り返ってみると、まず趣味の個人開発はずっと続けている。社会に出てからはずっとやってるので13年くらい。しんどいと思ったことはないが、たまに褒めてもらえる。「どうやって時間を作ってるんですか?」みたいに聞かれることもある。個人開発は完全に趣味で、好きなものを作っている。作ること自体がストレス発散で、新しい技術を調べながら実装するのも楽しい。仕事と違って締め切りもないのでプライベートが忙しいときは緩めればいいし、暇なときは打ち込める。しかもうまくいけばお金になることもある。本当に良い趣味だと思っている。大学生の頃、一番好きなことは趣味に、二番目に好きなことを仕事にすると良いみたいな言説が出回っていたが、自分から見える景色では一番好きなことを仕事と趣味にすれば良いと思う。職種によって違うと思うので一概には言えないけど。周りの友人が映画を観たりサウナに行ったり、キャンプをしたりするのと同じ感じで自分はプログラミングをしていると思う。これは特徴のひとつ。
あとは、新しいことを知ったり腑に落ちたりするとアガるというのもある。Webサービスを作るにもいろいろな要素がある。ユーザーから見える部分を意味するフロントエンドに加え、システムやデータベースなどのバックエンド開発。さらにより良い体験を提供するためのデザイン、システムを安定的に利用してもらうための監視システム。ひとつひとつの深度も深く学習は大変だが、一つ一つ手を動かしながら学んでいくのは自分にとっては面白かった。
一通りのものが作れるようになると、次はそれを流行らす方法を知りたくなった。まったく同じ機能を持つアプリが複数あっても、あるアプリだけが脚光を浴びていたりする。その理由を知りたかった。それはいち早く動いた先行者メリットかもしれないし、早い段階でクチコミが広がる仕組みを作ったからかもしれないし、他よりも遥かに優れたデザインを持つからかもしれない。作るのは年々簡単になってきて、その分ライバルは増え、どうユーザーを獲得するかをセットで考える時代になっていると思う。
ユーザーに届ける方法が自分なりにわかると、次はそれをお金にする方法を知りたくなった。エンジニア初期の頃はお金目当てで何かをするのはクールではないと思っていたが、サービスを改善し続けるには収益もあげなくてはいけない。さらにお金があれば宣伝などもできて、良いサービスを世の中に知ってもらう選択肢が増える。使いやすくて感動したサービスがお金にならず運営終了していく様子を何度もみてきた。良いサービスはしっかり対価を受け取るべきだと思う。ユーザー価値とビジネス価値のバランスと自分は呼んでいるが、解決した課題の分だけ売り上げが増えるような料金設定が必要。いまはそんなことを勉強している。
話が逸れまくったが、要は自分の知らない未知のことを解明、言語化したいという特徴がある。そんな自分にとって同じ場所で数十年同じ仕事をするのは辛いだろう。好奇心や新しく湧き上がる興味を大事にしたい。そしてこの特徴は人によって違う。なので誰かにとっての天職が自分にとってはストレスフルな環境だったりする。万人にとっての最適解はないので、自分にとってはどういう環境が良いのか、主語を自分で考えるのが良い。