「踊りつかれて」を読んだ

2025/07/05

塩田武士さんの「踊りつかれて」を読んだ。塩田さんの著書は「罪と声」「存在のすべてを」に次いで三冊目。どれも共通してキャッチーな掴み、登場人物の綺麗な心情描写などが好きで楽しく読んでいる。今作のテーマは「SNSの誹謗中傷」で、多くの人にいま読んで欲しい本。SNSでの暴論や確証のない拡散が人を傷つける。その根底には画面の向こう側に人がいるという想像力のなさがあると思うが、この本を読むとその解像度が少しはあがると思う。

好感度の高い芸能人のスキャンダルが報じられ、それにより失墜していく話は現代ではよく見かける。有名人の失敗を世間は許すことができない。自分のことは棚に上げて石を投げる姿は作中では「安全圏のスナイパー」と表現されているが、みんながツッコミで人の粗探しをしているから窮屈になる。物語自体も面白いが、誹謗中傷の被害者・加害者が精緻に描かれている点が面白い。不倫が報道されると「奥さんが可哀想」というコメントで溢れるが、奥さん当人はどう思っているのか?本人のことは本人しか分からない。人の気持ちを勝手に推測して攻撃するのは間違っている。

恋愛とはまた違う、もっと深いところの愛も作品のテーマとなっている。公私を超えてお互いを信頼する。連絡を取っていなくても気になり、相手もきっとそうだと思う感覚。少し綺麗に描かれすぎな感もあるが、人間のつながりについて素直な心を取り戻せる。作中では芸能として音楽とお笑いが登場する。クリエイティブな関係性には安心感に加えほんの少しの緊張感が必要になる。「この人に誇れる自分でいたい」その想いは素敵だが、本当に弱ったときに助けを求める足枷にもなる。Webサービスを作る仕事をしていて近しいものを感じたが、自分は辛い時は緊張感をすべて捨ててただの友人になりたいと思っている。