六本木

2025/07/10

新卒で入社した会社が六本木にあり、名前だけはよく聞いていた街が最初の勤務地になった。東京と聞くだけで恐ろしいのに夜のイメージも強い六本木。これは先に実態を見て落ち着かなければと思ったのか、入社式前日にひとりでオフィスビルまで歩いていくことにした。

朝8時頃家を出て、東京タワーを背にする形で六本木通りを歩く。六本木交差点に近づくとクラブなども増えてくる。なんとなくビビってると後ろから叫び声が聞こえ、振り向くと若者が黒いスーツを着た男に追われていた。若者はガードレールを越えて車道に逃げようとするが掴まれて確保される。明らかに普通の社会人ではなく、落ち着くどころか恐怖のバロメーターが振り切れることになった。

もちろんそれは一部分で、入社してからの東京ライフは楽しかった。研修中のランチタイムに同期と500円以下で食べれる店を発掘したり、部署の先輩におすすめのお店に連れて行ってもらったり、会社の人が定番で使っている居酒屋を教えてもらったり。ホワイト企業だったので毎日必ず定時の17時で仕事が終わる。それから家に帰り自炊、シェアハウスのメンバーが帰ってくるのを待ちながらプログラミングの勉強をするのが日課だった。

六本木付近にはWeb系の企業も多く、社外の勉強会にも参加しやすかった。仕事に慣れてきた頃にはじめて社外勉強会に参加して発表したが、仕事を終えて会場に向かう道中は心臓が跳ねていた。他の発表者にはSNSでよく見かける方も多く、自分で本当に大丈夫なのかという思いからスライドの装飾を無駄に凝り、少しでも本題以外のところで加点できるようにと謎の努力をした。発表自体は無事終わったが、あとでSNSに「エンジニアの発表スライドは本題がブレるから無駄な装飾はやめてほしい」というコメントを見つけ、自分の浅はかさが指摘されたのが恥ずかしくて落ち込んだ。

いまもオフィス付近を歩くといろいろ思い出す。海外出張に行くメンバーの顔合わせをこの店でしたなとか、飲み会の時間までの空き時間をこのベンチに座ってプログラミングしてたなとか、ビルの裏の公園にPokemon GOのジムがあり、朝早くに家を出て来たら役員の人のポケモンがいて遠慮してジムバトルできなかったとか。オフィスが移転してからはあまり行く理由もなくなってしまったが、今でも東京のオフィスというと六本木の印象が強く残っている。