アクセシビリティに関するNのこと(前編)
3年前にアプリエンジニアからWebサービスのプロダクトマネージャーに職を変えて以来、アクセシビリティについて考える機会がとても増えた。まだまだ全容は理解できていないが、勉強した範囲で書いてみたい。
アクセシビリティと書いたが正確にはWebアクセシビリティで、WebサイトやWebサービスをすべての人が使えるようにすることを目的とする。例えばレイアウトや文字サイズ、色のコントラストに配慮して設計すると、色覚異常の方や高齢者の方でも使える。見出しがあって本文がある、ボタンをアイコンだけで表現せず意味のあるタイトルを添えると、音声での操作ができたり文字読み上げが滑らかにできたりして視覚障害を持つ方でも利用できるようになる。そのサービスを利用するいろいろな人の環境を考え、配慮のある設計をしようというのがアクセシビリティ。
Webはアクセシビリティを担保しやすい媒体である。例えば新聞は印刷した時点で文字サイズが確定する。拡大鏡などを使ってある程度まで文字を大きく見ることはできるが限界がある。音声で読み上げることもできない。情報の出し手がフォーマットまで決めているといえる。それに比べてWebは受け取り側がフォーマットを選択できる。拡大して文字で読みたい人もいれば、音声でコンテンツを聞く人もいる。AI技術の進化によりコンテンツを動画に変換して見たり、自分の理解レベルに合わせてコンテンツを改変する未来も近い(小学4年生がわかる言葉遣いで書き直してもらうとか)。発信者はコンテンツを提供し、受け取り手がフォーマットを選べる。これはサービス利用者の間口を広げる。
Webは元々高いアクセシビリティを持っているが、近年のWebサイトやWebサービスは複雑化しており、考慮して設計や実装を進めないと使いづらいものになってしまう。例えばマウスをコンテンツに乗せるとボタンが出てくるインタフェースをつくると、マウスを持ちづらい人にとって使えなくなってしまう。キーボードだけでも操作できるとか、音声でも操作できるように設計するのが望ましい。こういう気をつけるべきポイントは多々あり、ウェブアクセシビリティガイドラインとしてまとめられている。JIS規格が参照されることが多いが、各社が独自にガイドラインを公開していたりする。デジタル庁も「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」を出しており、初めての人でも理解しやすいようにまとめてくれている。どのような環境でも使えるように、まずはどんな環境があり、考慮されていないWebサイトはその環境でどう使いにくいのかを理解する必要がある。
Webサイトの構造やパフォーマンスをチェックできるツールはあるが、アクセシビリティを完全にチェックするものは今時点でない。画像に代替テキストが設定されていないなど一部の項目は確認できるが、構造が読みやすくなっているかなどは人間的で、機械的にすべてをチェックできない。個人的にはこのあたりが整ってくるとアクセシビリティの浸透が進む気がしている。先述のパフォーマンス計測ツールをみんなが使っているのも、それがGoogleが提供していて基準を満たすとSEO的に有利という要素があったからだと思う。スコアの高いサイトにするとGoogleが検索結果の上の方に表示してくれて、より多くの人に届けることができる。何もなくとも全員がアクセシビリティを常に意識できるともちろん良いが、全員の意識を急に引き上げるのは難しいのでまずは仕組みかなと思っている。Appleは最近画面のどこに何があるかをAIが理解できるようになる旨の論文を出していた。AIは意味合いを理解できるので、AI活用が急激に進む今の時代ではよいチェック機構が生まれてもいいような気がしている。